ついに発売になりました。『本好きの下剋上』小説本編、通算31巻目です。
今回も特典目当てで紙の本はTOブックスさんの直販で購入し、それとは別に夫にKindleで電子書籍を買ってもらいました。
アーレンスバッハ供給の間で毒に倒れたフェルディナンドを救出する29巻からこっち、毎回毎回大量の加筆と閑話集があって、とにかく盛りだくさん。それでも、読まずにいられない…というわけで、例によって一気読みでした。
一気に読んでしまって細かいところが飛んでいたので、もう一度じっくり読み直してから書いていきます。
プロローグ
ディートリンデ視点。
ディートリンデ視点て、疲れますね。とにかく思考がアホすぎて。よくまぁこれだけ自分に都合の良いように考えられるな、と。とにかくおめでたいです。
でも、初登場の姉、アルステーデとのやりとりは新鮮でした。姉にとっては、わがままで天真爛漫な、しょうもない妹なんでしょうね。
とりあえず、アダルジーザの離宮の様子、そして、アーレンスバッハに帰れなくなったディートリンデたちやランツェナーヴェの面々がどうしていたのか。例のアーレンスバッハに送られてきた手紙がどういう経緯で書かれたのかが描写されていました。
この日を最後に、彼女にとっての平和な毎日が終了してしまう、と思うとちょっとだけ不憫です。とは言え、やっぱりこの人には嫌悪感しかありませんが…。
本編
ダンケルフェルガーとともに貴族院にあるアダルジーザの離宮に夜襲をかけるところから、貴族院での戦い、ツェントレースの決着、そして王族との話し合い直前までが今回の本編でした。
ここのところはずっとそうですが、とにかく加筆が多いです。Web版ではほとんど説明なく進んでいた設定等に説明が入ってわかりやすくなっていました。
もともと、この辺り、特にローゼマインに女神が降臨してからの話は、読んでいて苦しい場面が多くて、何度も読み返したいと思えなかったので、意外に細かいところは覚えていなかったこともあり、読み応えたっぷりでした。そして、今回の加筆や閑話集のおかげで、Web版に比べて苦しさは軽減して、しっかり読み返したいと思う話になっていました。
ただ、本編だけ読んでいる限りはWeb版と同じローゼマイン視点なので、以前に読んだものと大きく印象が変わることはありませんでした。その分、この後の閑話集で印象がガラリと…。
今回の加筆済み本編を読んでいて気になったこと…
エピローグ
アウブ・ダンケルフェルガー第一夫人・ジークリンデ視点。
プロローグとは正反対の賢夫人の視点ですね。寮に残って後方の采配を振るうジークリンデ様。有能ですね。
ダンケルフェルガーのアウブ夫妻、そしてレスティラウト・ハンネローレ兄妹との関係が垣間見えて、全体的には微笑ましいお話になっていました。ご夫妻、仲良いですね。
そんな中、フェルディナンドが卑怯で悪辣で敵に回したくないというアウブ・ヴェルデクラフ様。ジークリンデからしたら意外、としか言いようがないようです。まぁ、これから先の王族との話し合いで、規格外2人の規格外っぷりを目の当たりにすることになるので、意外と言っているのも今のうちかな。
大領地のアウブ夫妻らしく、自分たち主導でいろいろ決めていくつもりだった予定が、完全に狂ってしまって混乱している様子が楽しかったです。
中央の戦い
ローゼマインの目に入っていないところで一体何が起こっていたのかが詳細に書かれていました。本編がローゼマイン視点で基本のんきなので、緊迫感に欠ける部分があるのですが、それを補って余りある他者視点の話たちです。ここのところ毎回そうですが、本当に読み応えがありました。
イマヌエル・帰還した傍系王族
出ました、狂信者イマヌエル。
中央神殿の神殿長ですが、とにかく、ハルトムートとは別の意味でローゼマイン信者の彼。思考が気持ち悪いです。
いつの間にか神殿長になっていたと思ったら、前神殿長はラオブルートに毒殺されてたんですね。びっくりです。そして、その元補佐役の青色神官カーティスはどうやらイマヌエルを信用していない様子。この人か後でキーマンになっていたとは。
しかし、この時点でローゼマインがメス書をゲットしていることを知らないんですね。地下書庫のマニュアル本が本物だと思い込んでいます。ただ、メス書持ちだとわかったとしても、やっぱりローゼマインはツェントではなくて、中央神殿神殿長になってほしいことに変わりはないのでしょう。
イマヌエルの考える『ツェント候補3人』の中にディートリンデが入っていることも笑えます。選別の魔法陣を光らせただけなら、確かトラオクヴァールもジギスヴァルトもそうじゃなかったっけ? 知らされていないんですかね。
ラオブルートがヒルデブラントやその側近を騙してシュタープを取得させる場面が詳しく書かれていました。王の筆頭護衛騎士からあんな風に言われたら、信じてしまっても仕方ないかな。ヒルデブラントは好きではないけど、信用している大人に騙されて、一生取り返しのつかない過ちを犯してしまったと思うと、気の毒でなりません。シュタープを持てると嬉しそうにしている挿絵を見ると余計に。
ジェルヴァージオのメダルの確認、メダルの移動など、実はとても重要な動きをしていたイマヌエル。後であんなことになってしまいますが、自業自得ですね。
アナスタージウス・王族の立場
この場面の中では「保険」扱いの王子、アナスタージウス。
王宮・離宮への襲撃か?、ということで、トラウマ発動のエグランティーヌは別人のように弱ってしまっています。仕方ないですが。
ここで王族の皆さんのお名前が大量に判明。トラオクヴァール王の第一夫人ラルフリーダ、そしてアナスタージウス夫妻の娘ステファレーヌ。次の話でしたが、王の第二夫人もクレメンディアと名前がついています。他にはアナスタージウスの護衛騎士も2人ばかり名前がついていましたね。ここに来て判明するお名前はなかなか覚えづらいですが…。
「離宮を封鎖して安全を確保」ということで、おそらくジギスヴァルトの離宮も似たような感じで、使いづらいから声もかけられなかった結果、今回の騒動で彼の影がものすごく薄くなってしまったようですね。
王宮と離宮の位置関係がよくわからない、というか、結局のところ、転移扉でつながっているので位置はあまり関係ないのかもしれませんが、王宮が封鎖されると離宮以外からは連絡が取れなくなる、ということは判明しました。でも、今回はいきなり王宮が攻撃されたわけですが…。
時系列的に、ジェルヴァージオのグルトリスハイト獲得がほぼ確実になったので、ラオブルートが真意を隠す必要がなくなった、ということなのでしょう。真のツェント(ジェルヴァージオ)が誕生するなら、今の王族は必要ない、というか、処分対象でしょうから。特に、ラオブルートからしたら、トラオクヴァールは自分の婚約者だったヴァラマリーヌを処刑した仇敵でしょうし。
このお話を通して、ラオブルートの裏切りを知った時のアナスタージウスの驚きと怒りが伝わってきました。信頼していた分、怒りも大きかったのでしょうね。
今回、妻と娘を守るために矢面に立つアナスタージウスはちょっと株を上げました。それでも、自分たちが探し続けたグルトリスハイトが異邦人の手に渡った事実に打ちのめされています。そして、自分たちが上がれない祭壇に『ツェント候補』3人は軽々と上がれる…。つらい現実ですね。
マグダレーナ・裏切り者の討伐
ツェントの第三夫人、アウブ・ダンケルフェルガーの妹、マグダレーナ視点です。
ツェントの夫人三人はそれぞれに役割を与えられますが、三人の仲が悪くないことがわかります。それでも、ダンケルフェルガーの女、マグダレーナから見ると、他の二人はやはり守られるべき貴婦人で、自分とは違うと感じているようです。
この話の中で、最初にジルヴェスターが危機を知らせてから、実際に王宮に異変が起こるまでの経緯が書かれていますが、結局のところ、ツェントの筆頭護衛騎士で中央騎士団長のラオブルートが情報を遮断していたので、王宮に正しい情報は何一つ伝わっていなかったことがわかります。
ローゼマインやフェルディナンドの立場から見たら、王族はなぜ何もしないで引きこもってるの?、という感じですが、ラオブルートから『危険なので王宮と離宮は封鎖してください』と言われればそうなりますわね。いいように動かされています。
そして、王宮の守りの薄さに頭を抱え、自らツェントを守ろうというマグダレーナは紛れもなくダンケルフェルガーの女です。ツェントの護衛騎士だろうと、指示にない行動をすれば容赦なく捕らえる。さすがです。結果、それまでの経緯から裏切り者を割り出し、兄であるアウブ・ダンケルフェルガーと一緒に講堂に乗り込み、ラオブルートを討ちます(殺してないけど)。
マグダレーナは、フェルディナンドやヒルデブラントが関わらなければ聡明で勇敢な女性だなと思いました。フェルディナンドのことになると何故か目が曇ってしまうのですがね。
ジェルヴァージオ・女神の降臨
ランツェナーヴェの王、ジェルヴァージオ視点で、ローゼマインに女神が降臨した時の話が中心。ある意味今回のメインパートですね。なんたって、Web版のあとがきで
女神降臨場面をどうするか悩んだのですが、閑話よりはSSの方が良さそうですね。
Web版649話「ツェントレース」あとがきより
いつになるかわかりませんが、そのうち
と書かれていた部分です。これが2017年1月なので、約7年越しで叶ったことになります。
ジェルヴァージオがメス書を受け取りに始まりの庭にいるところから始まります。ローゼマインの妨害によって、受け取れるはずの英知が受け取れず、メス書が不完全なものになってしまいました。エアヴェルミーンも戸惑っているのが笑えます。
始まりの庭を出て祭壇上でフェルディナンド・ローゼマインと戦うわけですが、ここで初めて知らされる衝撃の事実。ジェルヴァージオから見たら、ふたりとも魔力量が圧倒的に少なかった…。意外でした。フェルディナンドの魔力量を『大したことない』と切り捨てられる人がいたんですね。
だとすると、今のユルゲンシュミットってヤバすぎますね。
それでも、ご加護の取得などで省魔力に長けているローゼマインのことは不気味に思っているみたい。そして、当然敵対しているものと思っていた二人が共闘していることに驚くジェルヴァージオ。立場が違うと、こうも見方が違うんですね。
そして、いよいよのメスティオノーラ降臨。
メスティオノーラ、思いの外高圧的。そして、フェルディナンドがメチャクチャ嫌われてるw。
エアヴェルミーンがメスティオノーラから力を分けてもらってすっかり丸くなってるのが笑えました。それまでキリキリしていたのにね。
そして、ローゼマインにとって、本より大事なものの記憶を断った、と聞いて、本なんてそこまで大事に思うわけないから、ほとんどの記憶が残ってないんじゃない?と思うジェルヴァージオ。まぁ、知らない人ならそう思うよね。当然、フェルディナンドの記憶も無いに違いないって。
でも、目を覚ました後、本編ではフェルディナンドのことはわかっていたから、その後自分は本以下だと卑下したのかと私は思っていたのですが、実はここで魔力を流して記憶をつなげていたんですね。つまり、本当は忘れていたんだ? 魔力を流せば記憶はつながるけど、知らない人の魔力を流されたら拒否感を示すだろうし、無断で魔力を流されたと知ったらどう感じるか?と言われていましたが、ローゼマイン自身はフェルディナンドの魔力に拒否感を示したことはないですからね。本来なら破廉恥な所業だけど、この二人は特別だからなぁ。
メスティオノーラの「クインタはマインの記憶がなくなっているのと、残っているのとどちらを望んでいるのかしら?」っていう質問、超意地悪。この神様、思ったより感じ悪かったです。「記憶がなくなっている→大事。でも知らない人扱い」か「記憶が残っている→大事さにおいて本以下」ということですからね。まぁ、自己評価の低いフェルディナンドからしたら、本以下で当たり前だと思っていそうですけど。
魔力を流しながら必死で意識のないローゼマインに呼びかけるフェルディナンドのことを『甘すぎる』とバカにするジェルヴァージオ。色んな意味でジェルヴァージオはフェルディナンドのことを見くびってますね。結果的にはそれが油断に繋がり、負けるわけですが。
ローゼマインが目を覚まして、クラッセンブルク国境門に転移してからは、それこそフェルディナンドの独壇場。ジェルヴァージオやランツェナーヴァに残った王族たちは気の毒な面もあるのですが、そこはやっぱり、フェルディナンドの言うとおリ「トルキューンハイトを恨みながらサッサと滅べ」といったところでしょうか。
最後の部分、ギレッセンマイヤーの国境門に閉じ込められたジェルヴァージオの怒りを知れば(そして彼の魔力量を考えれば)『回収』に行ったエグランティーヌの護衛騎士たちが十数人も犠牲になったのもむべなるかな、という感じです。
フェルディナンド・負けられない戦い
フェルディナンド視点で改めて、ジェルヴァージオとの力量差を思い知らされます。そんなに差があったんだ? 周りに弱みを見せることがないフェルディナンドなので、この閑話集を読むまでは、そこまでの差があるとは思いませんでした。何しろ、本編を通じて、完璧・最強だと思ってたし。
ジェルヴァージオの妨害をするのに手足を撃ち抜いたまでは良いけど、回復薬をおいてきた、っていうセリフから、以前は『え? 思ったより甘い』と思っていた私ですが、確かに普通の回復薬を置いてくるはずがないんですよね。っていうか、神々へのアリバイ作りに薬は必要だったのですね。おまけに自分の魔力を消費して回復させる薬って。やっぱり悪辣魔王でした。
イマヌエルが責められるのは自業自得として、メダル廃棄は所属する領の領主一族しかできなかったんですね。初めて知りました。だから、後々アーレンスバッハ貴族のメダル破棄はローゼマインの試験になったんですね。そして、罪人の所在が領地の内外でメダルの動きが違うのも初めての記述ですね。この、領地外での破棄ではメダルが割れてから燃える、というのは今まで読んだことがないので、おそらく ローゼマインが後々破棄する時の記述も多少変わることでしょう。
この、ジェルヴァージオのメダル破棄が間に合うかどうかで、その後の自分たちのみならず、ユルゲンシュミット全土の貴族たちの運命が大きく変わることになるので、先を知らなければドキドキですね。本編ではサラッと、本当にサラッと流されてしまった部分ですが、このお話ではフェルディナンドの緊迫した心情が伝わってきました。そして、挿絵のホッとした笑顔がすてきでした。普段決して感情を見せることのない彼が、内心本当に焦っていたのだとわかって新鮮でした。
まとめとこれから
貴族院の戦いは、本編を周回しているときには、フェルディナンドを救出して盛り上がったところから最終的に平和なアレキサンドリアになるまでの『障害』みたいな部分の一つで、結構読み飛ばしてしまっていた部分なので、こうして本になり、他者視点で背景を補完してもらったことで、そこの時間軸にしっかりとした肉付けがされて、より読みやすくなったと感じました。ついつい、すぐに読み返してしまいました。
ここから先はまた、読んでいて苦しい場面が続きますね。今回女神が降臨して、記憶は一部断たれるわ、女神の残滓から周りを知らずに威圧してしまうわとすでに結構つらいのに、次巻はその弊害が明らかになる上、さらに大変なことに…。
ここまで、通常では1巻につきWebで20話前後が収録され、ここ3巻くらいは書下ろし閑話集が多いために16~17話程度になっていました。
Web本編の残りは25話なのですが、完結まではあと2巻と言われています。残り話数だけ考えると、収録話数少なすぎない?、と思われますが…。
実は、この巻の最後に今後の予定が出ていて、次巻は来年春、そして最終巻は来年冬となっています。最終巻までの間を考えると、書き下ろしがかなり多そうですね。
と思っていたら、香月先生の活動報告で、最後にこんなことが書かれていました。
第五部ⅩⅡは冬発売予定。こちらもドラマCD付きの予定です。
「小説家になろう」香月美夜・活動報告2022年12月12日「12/11までの情報まとめ」より
ずいぶん期間が空きますが、書き下ろしが多いんですよ。半分以上……多分3分の2くらいが書き下ろしになる予定です。
忙しくて連載を続けられなくなり、web版では一番短く終わる形で本編を終わらせましたが、書籍では省略したアウブの就任式まで書く予定なので、本編がまず増えます。
せっかくなので閑話集も入れたいですね。
皆様を長くお待たせしてしまうことになりますが、最初に想定していた中で長い方のラストを書き上げたいと思います。
楽しみに待っていただけると嬉しいです。
ここまで本編は基本Web版準拠で、大きく離れることもなく進んできましたが、最後の最後で『本来の長い方のラスト』を書いてくださるそうです。アウブの就任式…楽しみすぎます。
この長い物語が順調に刊行されて、ついに完結、と思うと感慨深いですが、書かれていなかった領主会議前後の話が読めるのは本当に楽しみです。
とりあえずは次巻ですね。果たして『記憶』まで行くのかな? いや、そこまで行っちゃうと終わっちゃうから、その前までかな…?
書籍特典SS コルネリウス「消えて、戻った妹」
一度はすぐに読んでいたのですが、すっかり忘れていました(笑)。追記します。
ローゼマインの大規模ヴァッシェン後の側近たちの動きをコルネリウス視点で。
祭壇から3人が消えた後、状況が多少落ち着いたところで側近たちが集まり、ダンケルフェルガーに後を託して一旦休息に入ってしばらくすると、ローゼマインに名を捧げた者たちに異変が…。例によってハルトムートが女神降臨を察知し、ローゼマイン讃美をはじめます。いつものことですが、ローゼマインの魔力が塗り替わったときに、正確に状況を察するのがハルトムート。でも、周りには理解してもらえません…。コルネリウスやレオノーレのうんざりした感じが通常運転で笑えます。
その後フェルディナンドの指示でエーレンフェスト寮に向かい、戻ったローゼマインを迎えに行きますが、そこで本当に女神の御力に満ちたローゼマインに、みな驚きを隠せません。近寄りがたいけれど、兄としてそう見えないように頑張るコルネリウス。自分まで距離を取ると、ローゼマインが寂しがるので…。
名を捧げているラウレンツやマティアスは近寄りがたくはないようですが、どうやらハルトムート化が始まっている模様…。名捧げ側近の総ハルトムート化。コワいけど笑ってしまいますね。
ここのところ、書籍特典のSSは、読んでみると、そこまで無理して入手しなくてもいいかな?、という感じになってますね。そのうち短編集にも入りますしね。むしろ、大事なのはドラマCDの特典冊子。短編集に収録されないのに、かなり重要な内容が書かれていたりするので…。そういう意味では、残り2巻は両方ともドラマCD2枚組が同時発売になるので、結局買うんですよね。うーん、乗せられている感が否めないけど、だからといって、読まずにはいられないんですよねぇ…。まぁ、あと2回だし。
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