今シーズンは最後の鑑賞になるかと思います。METライブビューイング「ランメルモールのルチア」(ドニゼッティ作曲)を観てきました。今までは古典的な演出だったのが、今回から新演出で、現代のアメリカに舞台を移しての上演となりました。
あらすじ
16 世紀末(新演出では現代アメリカの衰退した地方工業都市)。アシュトン家のエンリーコは、家の存続のために妹のルチアを政略結婚させようとしているが、ルチアは敵方のエドガルドと愛し合っていた。それを知ったエンリーコは、エドガルドが別の女性を愛しているという偽の手紙でルチアを騙し、強引に結婚式を挙げるが、その席にエドガルドが乱入。ルチアが署名した結婚証明書を見たエドガルドは、ルチアを罵倒して去る。絶望したルチアは正気を失い、新婚の床で夫を刺してしまう…。
上記公式サイトより
感想
「ルチア」好きです。特にデセイ版が好き。
「ルチア」はすごく好きなオペラで、特に、ナタリー・デセイのルチアがお気に入りでした。彼女は超・演技派で、METの前の演出では存分にその歌と演技を堪能させていただいたものです。
デセイは、来日して演奏会形式のルチアを歌ったときに、ナマで鑑賞しています。なんともう10年も前なんですね。
今回の演出について
そんなわけで映像やライブで何度か鑑賞している「ルチア」ですが、今回新演出で舞台がアメリカ、というのを聞いて、最初は「どうなの?」と思ってしまいました。特に、公式のヘッダーに載っている写真を見たら、ね。
でも、そこはMETです。読み替えオペラは苦手な私ですが、今回の読み替えは、個人的に「有り」だと思いました。現代のアメリカ、と言っても、デトロイト辺りの、以前は栄えていたけれど少し寂れてきた工業都市で、兄のエンリーコはヤク中のマフィアで、借金まみれで首が回らない。本来の設定の「没落貴族」と立場は全然違いますが、似ていると言えばちょっと似てる…。
時代は変わっても人間の性はそうそう変わらない、ということで、台本はそのままでもそれほどおかしくない話になっていました。むしろ、わかりやすかったりして…。いつも、ルチアの「狂乱の場」で正気をなくしたのはわかるけど、その後「死んだ」と聞いても「なぜ?」と言う感じだったのが、今回はルチアの自殺シーンを挟んでいました。それ一つをとってもわかりやすかったですね。
他にも、寂れた街を再現した回り舞台が常に回っていたり、ルチア密着カメラの映像が舞台上のスクリーンに映し出されていたりと、観客が感情移入しやすい環境を作っていました。
ただ、「狂乱の場」の演出は…。いつもの血まみれウェディングドレスなのですが、血まみれの血の量がすごすぎて、ちょっと引くレベル。そして、ドレスも顔も手も血だらけなので、そっちが気になって気になって、歌を集中して聴けなかったかも…。もう少し量は抑えられなかったのでしょうかね。かなりグロかったです。
演唱について
そして、演唱の方は、タイトルロールのネイディーン・シエラがとても良かったです。彼女は美人だし、スタイルも良くて、オペラ歌手らしからぬルックスをしています。その上あの難曲の数々を軽々と歌いこなしていくんですね。以前にも別の役でみたときに「すごいな」と思ったのですが、今回も素晴らしかったです。
そして、男声ではエンリーコ役のアルトゥール・ルチンスキーが素晴らしかった。イケボですよね。1幕のロングトーンはどこまで伸びるの?、と思いました。
またエドガルド役のハビエル・カマレナもすごかった。ドニゼッティはテノールが難しいらしいのですが、全然危なげなく高いところまで出してましたね。
終わりに
このルチアは、本来の「ランメルモールのルチア」を知らない人にはあまりおすすめ出来ないのですが(読み替え演出はあまり初心者向けではないと思っています)、この演目を好きな方なら、とても楽しめると思います。私は楽しく鑑賞しました。
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